配偶者の法定相続分

 相続人が配偶者と子の場合、今は、配偶者の法定相続分は2分の1です。

 いつから2分の1なのでしょうか?

 戦前は家督相続で、子がいる場合、配偶者には相続権がありませんでした。

 戦後になって初めて、子のいる場合にも配偶者に相続権が認められました。当時、配偶者と子が相続する場合、配偶者の法定相続分は3分の1でした。

 その後、1981年に、今と同じ2分の1になりました。

 戦後の民法改正で、子のいる配偶者に相続権が認められたのは、GHQから家制度の廃止を求められたことが主な理由のようですので、必ずしも、日本国内での女性の運動等によるものではないのかなと思います。

 でも、1981年の改正で、配偶者の法定相続分を2分の1に増やすことについては、当時結構、女性の団体による運動が盛んだったようで、多くの請願書が国会に出されたそうです。

 このとき、中心になって活躍されたのが、関西初の女性弁護士で、当時参議院議員だった佐々木静子先生です。議員立法として国会に提出して、成立しました。

 その時の佐々木先生のコメント「・・今まで男性が法律を作り、女性はそれに従わせられた。今度は女性が法律を作る。次世代の女性たちも幸せになってもらえる法律を女性の手で作るんだと胸が熱くなりました」。

 佐々木先生は、戦時中に18歳でご結婚されて、夫の実家の和歌山で疎開されていたそうです。そのときに、焚き付け用にもらってくる古新聞をとっておいて、こっそり読むのが一番の楽しみだったとのこと。そして、戦後のある日、封建的な家族制度を廃止し、夫婦を中心とする民主的な家庭に変革し、あらゆる部門において男女平等を実現するという趣旨の憲法草案を伝える記事を目にされたそうです。この記事を見て感激し、何度も繰り返し読み、胸を躍らせたのだそうです。

 その後、まだ小さかったお子さんを連れて大学の入学試験をこっそり受けにいき、入学して、わずか2年ほどで司法試験に合格されたようです。(;・∀・)。

 弁護士登録後に、ご離婚されて、司法修習の担当教官だった元裁判官と再婚され、ご夫婦で事務所を経営なさっていたそうです。そして、十数年後、佐々木先生の参議院議員の任期中に、その夫の不倫と婚外子二人の存在がわかって離婚するなど、当時いろいろと世間の注目にさらされていたようです。この(元)夫の佐々木哲蔵先生も、いろいろとスキャンダルも業績もある有名な先生だったようです。

 また、八海事件という有名な強盗殺人事件をご夫婦で担当されて、無罪を獲得されています。3回死刑判決を受けて三回上告したという何かと前代未聞の冤罪事件です。そして、この方を裁判継続中、職が見つかるまでの一時期、ご自宅に住まわせてあげていたそうです・・。びっくりです。

 佐々木先生は、その後、91歳まで長生きされて、かなり晩年まで現役で弁護士として活躍されていたようです。

 晩年のお言葉。「ふり返ってみると恥多い人生です。・・私は残された人生、この命の続く限り、今なお国際人権規約よりみても立ち遅れている日本の女性の権利を少しでも国際レベルに引き上げるために、弱者の味方として自分の生き方を貫きたいと思っています。」生涯変わらずに、熱いお気持ちで活躍を続けていらっしゃったのですね。

 3分の1から2分の1へ、少しのアップですが、40年前の相続法改正が、関西発の女性弁護士である佐々木先生を中心とする女性による運動で実現されていたなんて、知りませんでした。つぎは・・8分の5くらいを目指す感じでしょうか・・(*^_^*) 

 配偶者の相続分は、国によっていろいろです。相続で分ける前に、まずそもそも夫婦共有財産の清算手続きがあって、それから相続人間で分ける、という制度のところもあります。また、イギリスなどでは、まず数千万円くらい一定額の枠が配偶者の分として確保されて、それを超える分がある場合にのみ他の相続人と分けるという制度になっているそうです。

 代々の家の財産を次の世代につないでいくという相続の伝統的な機能と、生存配偶者の生活保障とか、夫婦の財産の清算など今の時代に必要とされる機能など、いろいろな兼ね合いで、各国で、改正が重ねられているようです。

 さて、こんな昔の改正が何か、いまの話と関係あるの?と思われるかもしれませんが、実は相続の手続きでは、たまに関係してきます。

 たとえば、ご自宅の不動産などについて、何十年と相続手続きをされないままになっていたりすることがあります。そして、いざ手続きしようとすると、前の相続、その前の相続・・と遡って相続人を確認していく必要があり、その過程で、あ、ここから前は改正前の相続分だから・・・この方の相続分はいくらいくらで・・・とチェックする必要があるので、いつ、どう改正されてきたのか、手続きに関わってきます。

 こうした何次もの相続が重なってしまって、相続人さんが多数いらっしゃる場合は、やはり弁護士にご依頼いただくのがスムーズです。

 相続人さんの人数が多く、ご遠方の方やご高齢の方などもいらっしゃるので、とくに争いのない件でも、おひとりずつご説明して印鑑証明をいただくのが困難な場合も多く、可能だとしても非常に時間がかかることになりがちです。

 事前にご説明の文書等を差し上げて、必要に応じて個別にご説明さしあげつつ、併せて調停も申し立てさせていただくのが合理的な場合があります(やはり、裁判所から調停の通知が行くことで、はじめてアクションを起こしてくださるという方も多いのが実情です)。

 調停の場合、相続人さんが多数でも、一度に進めていけますし、相手方さんとしても、特に争う意思のない場合、その旨の回答を裁判所宛に出していただくだけでよく、出廷も印鑑証明等も必要ありませんので、負担もそれほどありません。

 当事務所では、遺産分割など相続に関するご相談を承っております。

 お気軽にご相談ください♪

                                作成:弁護士 若山 桃子

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 参考資料「女性弁護士物語」 山本祐司・五十嵐佳子 著  日本評論社