相続放棄(その③ 疎遠だった方の場合など)

 相続放棄がなぜ行われているのでしょうか。

 引き続き、明治安田生命さんの調査結果をもとに書かせていただきます。

   女性の相続と財産に関する調査 (myri.co.jp)

 「別の兄弟が家を継いだから」「別の兄弟が親の世話をしているから」などに次いで、「その他」の理由という方も13~18%で一定の割合おられます。

 これが具体的にどういう内容なのかは調査結果には記載がありません。

 推測にはなりますが、被相続人と疎遠でよくわからないからとか、場合によっては被相続人と縁を切りたい、あるいはすでに縁を切っているからといった方も多いのかなと思います。

 相続人といっても、叔父叔母や甥姪となるとほとんど知らない関係ということもあります。また、親子でも、例えば、子供さんが幼い時にご両親が離婚しておられて、その後全く会わないまま・・ということもよくあります。

 このような場合に、相続放棄をされること自体はもちろん問題ありません。

 ただ、よく知らないご関係であればこそ、調べてみると思いのほか多額の遺産がある場合もあります。

 遺産が多い方は、なにも成功していて有名でお金持ち、というような場合ばかりではありません。

 長年、不自由な暮らしをされておられた方のなかにも、多くの遺産を残される場合があります。

 また、例えば、交通事故や労災事故で大きなお怪我をされたり、亡くなられたような場合には、相当な額の賠償が支払われていたり、今後請求が可能という場合もあります。

 被相続人さんが、亡くなられたときやその直前までどこかにお勤めであれば、退職金が出る場合もあります。(遺族が支給の対象となっていれば相続放棄しても受け取れますが、そうした規定のない本人に支給される退職金であれば相続放棄すると受け取れなくなります。)

 遺産の多寡は、被相続人さんの生前の生活ぶりなどだけからはわからないものですし、ましてや長年つきあいのなかった相続人さんには全くわかりようのないものです。

 ですので、少し縁の遠い方の相続の場合には、すぐに放棄をしてしまわず、少し調べてみられたり、弁護士にご相談いただくと、思わぬ発見があるかもしれません。(もちろん、過度の期待は禁物です・・。)

 なお、相続するか放棄するかということと、たとえば、ご遺体の引き取りをしなくてはいけないかどうかはまた別の問題です。(相続するなら引き取らなくてはいけないということでもありません。相続人でない方で、けっこう遠いご親戚の方でも警察や自治体から、ご遺体の引きとりを求められる場合もあります。引き取りが義務であるかどうかは別ですが・・・。どなたも引き取りをされない場合には、相続人や扶養義務者であれば、後から火葬費用等の請求を受けることがあります。)

 また、相続放棄をしても、それぞれの要件を満たせば受け取れるお金もあります。遺族年金、生命保険金、労災の遺族向けの補償金、また遺族を対象とする死亡退職金などです。

 逆に、相続放棄しても免れない債務もあります。

 (相続債務とは別なのですが)例えば、賃貸アパートを借りる際の保証人や高齢者施設に入居される際の保証人になっていると、相続を放棄しても、部屋の明け渡しや原状回復費用の支払い義務を負うことになります。

 その他、例えば、ご遺体の引き取り手がなかった場合、最終的には、市町村が火葬をすることになるのですが、この費用を相続人に弁償請求し、相続人による弁償がない場合、亡くなられた方の扶養義務者がこれを支払うことになります。なので、相続放棄をしても、親子や兄弟さんであれば、こうした費用の請求を受ける可能性があります。

(もっとも、実際には、生活保護の葬祭扶助で賄われる場合が多いようではありますが・・)

 死後に、遺体を引き取ってくれる方がいるかどうか・・・というご心配をなさっている方は実は結構多くいらっしゃるのかなと思います。

 必要に応じて、遺言の作成や死後事務委任契約などをご検討いただくとよいかもしれません。

 当事務所では、相続に関するご相談を承っております。

 その他身近なお困りごとなどもお気軽にご相談ください♪

                                 作成:弁護士 若山 桃子

【参考資】】

「Q&A 孤独死をめぐる法律と実務」弁護士 武内優宏 著

 日本加除出版株式会社

 https://www.kajo.co.jp/c/book/05/0501/40835000001

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