相続放棄(その② 放棄するのはなぜ?)

 相続放棄をする方は、なぜ放棄するのでしょうか?

 裁判所による統計に、放棄の理由に関するものが見当たりませんので、明治安田生命さんの調査結果をもとに、この記事を書かせていただきます。

   女性の相続と財産に関する調査 (myri.co.jp)

 まずは、遺産のなかで、財産よりも負債の方が多い場合です。

 相続放棄をしなければ、債務を負ってしまいますので、このような場合には必須ということになります。

 たとえば、被相続人さんの、親御さんやお子さんなど、近い関係にある方で、被相続人さんの生前の財産や借金の内容などを把握しておられる場合であれば、放棄をするということでまず間違いないと思います。

 亡くなられる直前まで債務のことで苦しんでおられた・・というようなお話をご家族の方からうかがうと、いたたまれない気持ちになります(債務問題は法律で解決できる場合がほとんどです。お早めにご相談ください。)

 また、借金があるのはわかっていて、財産もおそらくないけれどもはっきりわかっているわけではない・・という場合は、ひととおり調べてみたり、弁護士にご相談いただくことをおすすめします。

 ところで、実は、この「負債の方が大きかったから」という理由で相続放棄をされる方は、放棄される方全体のなかで、実は10~16%と割と少数派です。

 個人的には、普段、放棄の手続きをご依頼いただくのはこのケースが多いかなと感じていましたので、調査結果をみて、少し意外に思いました。

 つぎに多いのは、「別の兄弟が親の世話をしているから」で、18~26%くらいです。

これについては、ある程度、合理的な理由だとは思いますし、そういう方も多いのかなという印象です。

 調査結果には、詳しくは書いてありませんが、「お世話をしているから」となっていて、「お世話をしていたから」という記載にはなっていないな・・と細かい点が気になったりはします。

 例えば、一次相続のときの相続放棄の話であれば、お父さんが亡くなられて、今現にほかの兄弟さんがお母さんのお世話をしてくださっているというような状況で、これからお母さんのお世話にどれくらい費用や労力がかかるかわからないから・・ということで、放棄をして、お母さんや、お世話をされている兄弟さんに譲ろうというお気持ちにはなりやすいかもしれせん。

 また二次相続の場合でも、それまでのお世話の内容や期間、遺産の多寡にもよるとは思いますが、お世話を他の兄弟におまかせしてこられた経緯がおありですと、やはり、相続についてあまり権利主張するのは心情的にもはばかられる面もあるかもしれません。

 そして、一番多い理由は「別の兄弟が家を継いだから」というものです。

 放棄をした女性の46%、男性で35%がこの理由を挙げています。

 「別の兄弟が親の世話をしているから」という理由とははっきり区別された項目とされたうえで、「別の兄弟が家を継いだから」が、なお一番の理由になっているというわけです。

 この調査結果には、内心かなり驚きました。

 一定の割合でいらっしゃるという認識はありましたが、まさか相続放棄の理由の一番を占めているとまでは思っていませんでした。

 家を継ぐ?・・・お家制度・・・?

 それも、これほどの高い割合ということは、一部の歴史のある古いお家柄の方の場合に限らず、一般的なご家庭の方にもこれを重視される方が多くいらっしゃるのだな・・と感じました。

 家を継ぐというのは、具体的には何を意味するのでしょうか。

 いわゆる、家業を継ぐということとはまた違うことのようです。

 会社経営者や個人の自営業者の割合は、労働人口のうちのだいたい5%ほどしかおられませんので、相続全体のなかで、家業のある方の相続というのもおよそ5%以下と考えていいのではないかと思います。つまり、大多数の相続において、家業の問題はあまり関係ないのではないでしょうか。

 つまり、家を継ぐというのは、家業とか職業的なことではなくて、氏を引き継いで、実家の不動産を維持し、お墓を守って、祭祀を行うことをいうのかなと思います。

 こうした役目を長男さんなど特定の方だけに、相続後、どれくらいの期間かはわかりませんが、たとえば20年なり30年なり負っていただきたいという要望が他の相続人さんの側にもあるのであれば、それなりに負担になりますので、それに応じた相続分の調整をすることは必要になるとは思います。

 一方で、今は、戦前のような長男が一切を引き継ぐという家督相続の制度は法律上もちろん廃止されています。昔であれば、戸主には家族を家籍から排除するなどの権限がある一方で扶養の義務もありました(この制度についてはあまりよく知りませんが)。

 しかし、今は、例えば、法律上、扶養の義務は親子や兄弟が互いに負っていて、その負担は平等です。家を継いだ人(?)が、他の家族より重い責任を負うわけではありません。

 また、もし、相続の後、いずれかの時期に、ご実家が売却されて何もなくなっても、放棄された方は少なくとも法律上は何かこれについて分け前を請求することはできません。

 ですので、理屈でいうと、特定の相続人の方に、家を継いでもらうということのために、他の方が相続放棄までなさる必要まではなく、相続分の調整でも足りる場合も多いのではないかとも思います。

 あるいは、特定の方が家を継ぎ、ほかの兄弟姉妹さんは相続放棄するという相続のあり方自体に、理屈ではなく、価値をおかれるご家庭もあるのかもしれません。

 ただ、相続人さんのなかでも、経済事情も価値観もひとそれぞれです。

 例えば、経済的にあまり余裕がなかったり将来の不安がおありだったり、あるいはあまり家を継いでいくといったことは重視されない、価値を感じないという方もいらっしゃると思います。

 法定相続人の方には、遺言がない限り、基本的に法的相続分を相続する権利がありますし、遺言があったとしても、最低限、遺留分は確保する権利があります(兄弟さんの相続の場合を除く)。 

 法律に基づいて、相続分を受け取ることは、相続人さんの正当な権利です。

 ただ、残念なことに、場合によっては、ご家族さんから、嫁に出て他家の人間になっているのだから、うちの相続はさせない、とか、親の面倒をみなかったのだから相続する資格はない・・などといって相続分の受け取りをさせまいというプレッシャーを受けることもしばしばあるようです。

 大切なご家族から、こうしたプレッシャーを受けることは、お気持ち的にもつらいことだとは思います。

 たとえそのような状況でも、正当な権利を行使されることを躊躇される必要はありません。

 もし、誰かの正当な権利を害してまで、もめないことだけを最重要視した解決をはかろうという方がいらっしゃるのであれば、それはおかしなことだと思います。お互いの権利を尊重した上で、それぞれが納得できる、ご家庭ごとのご事情に合った解決を考えていく必要があります。

 相続放棄を求められているけれども違和感を感じる・・という方、遺産の分け方についての話し合いがあまりうまくいっていないという方、また遺産の内容などもまだよくわからないという方も、ぜひ一度、当事務所にご相談ください。

 そのほか、身近なお困りごとなどもお気軽にご相談ください♪

                                作成:弁護士 若山 桃子

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