特別受益 10年で逃げ切り可能に⁉(相続問題)

 

 特別受益を調停や審判で主張できる期間に新たな制限ができます。

 今年の4月から、相続開始から10年経過すると、遺産分割で特別受益を裁判所に考慮してもらえなくなります(10年経過する前に家裁に遺産分割の申し立てをしていた場合を除く)。

 特別受益とは、遺贈、婚姻もしくは養子縁組のための贈与、生計の資本としての贈与です。たとえば、結婚するときの持参金や、住宅を購入する際の援助、私立医大などの高額な学費や、事業用の資産や自社株式などを譲り受けている場合などです。

 相続人のなかに、特別受益を受けた方がいる場合に、その分を計算上、持ち戻して遺産分割をします。(被相続人が、特に持ち戻しを免除していた場合はその限りではありません。)

 これまでは、遺産分割において、いつでも特別受益を主張することができました(遺留分侵害請求の対象とする場合を除く)。

 それが、今年の4月からは、相続開始後10年以内に家庭裁判所に遺産の分割の調停・審判の申し立てをしないと特別受益の主張が認められないという取り扱いに変わります。

 しかも、すでに相続が開始している件についても、遡及的に適用され、相続開始から10年もしくは施行から5年(令和10年3月31日)のどちらか遅い方が期限となります。

 これはかなり影響が大きく、要注意な改正です。

 特別受益を受けておられる方にとっては、10年息をひそめておけば逃げ切れるチャンス!ということになりますし、逆に特別受益を受けなかった方にとっては、10年過ぎてしまうと、もらい損ねたままになり、遺産分割で取り戻せない・・・、ということになってしまいます。

 10年というと長いようで、そうでもありません。

 たとえば、お父さんが亡くなられたあと、すぐに遺産分割をせずに、お母さんがご存命のうちはそのままにしておかれる場合も多いと思います。そうすると、お母さんが亡くなられて、いざ遺産分割の話を始めたころには、もう特別受益が主張できなくなっているということにもなりかねません。

 ですので、相続開始後、早い段階で、少なくとも、遺産分割の準備として、戸籍や遺言の確認、遺産の預金の取引履歴の確認、不動産の名寄帳の取り寄せ等はしておかれるのが良いのではないでしょうか。遺言については、公正証書遺言であれば公証役場で検索できますし、自筆証書遺言書を法務局に保管してあれば、法務局で閲覧できます。預金の取引履歴は、金融機関に請求すれば、10年分を出してもらえます。各相続人が単独で、金融機関に開示を請求できます。

  

 特別受益となる贈与は、相続開始の何十年も前に行われている場合も多いうえに、特別受益を主張する必要があるのは受益を受けていない方の相続人なので、自分の手元には資料がないというケースも実は多いので、できるだけ早めに資料を手に入れておくことが重要です。

 制度としては、このような期間制限を設けることで、遺産分割がむやみに先延ばしにされて権利関係が不明確なままになったり、ずっと昔のことが延々と主張されて調停や審判が長期化したりすることを防ぐ目的のもので、効率的になるのは全体として良い方向の話だと思います。

 でも、この取り扱いが、世間全体にちゃんと周知されるまでは、混乱が生じる可能性があります。

 相続は人生でそう何度もあることではありません。いつでも分けられると思っていても、遺産の範囲はどこまでか?とか 相続人は誰がいる? これまでは誰がどれだけもらっていたか?など、確認すべき事柄も意外と多く、予想外の事態になることもあります。
 早めに準備を始めておくことが大切だと思います。

 特別受益のある方もない方も、相続については、ぜひ、当事務所にご相談ください。

 もちろん、「自分は、特別受益を受けているから、ひっそり10年待って逃げ切ろう・・・」という作戦の方も、よく調べたら実はほかの兄弟さんも特別受益を受けていて、実はそちらの方が多額だった・・・という可能性もあるかもしれません(;^ω^)。

 油断は禁物です♪ 

 

                                作成:弁護士 若山 桃子

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