配偶者居住権は低調
65歳以上の高齢者女性の場合、配偶者がいる方は5割くらいです。(男性は8割くらい)
そして、65歳以上の女性の2割以上が一人暮らしをしています。
1 高齢者の家族と世帯|平成29年版高齢社会白書(全体版) – 内閣府 (cao.go.jp)
結婚するまで実家にいた方なら、高齢になってはじめてひとり暮らしすることになります。そうでなくてもウン十年ぶりにひとり暮らしすることに・・・。そう考えると、心細いですね。
さて、夫に先立たれた女性(たいていそうなるわけですよね・・)が、住むところと生活費に困らないようにしなくては・・ということで、令和2年から導入されているのが「配偶者居住権」の制度です。
これは、被相続人が所有していた自宅に、配偶者が相続開始の時点で住んでいた場合に、ひきつづき無償で使用・収益できる権利です。被相続人が遺贈や死因贈与の対象としたとき、また遺産分割の協議で取り決めたとき、審判で決まったときに成立します。登記の設定が必要になります。
妻の法定相続分は2分の1です。
余談ですが、個人的には配偶者の法定相続分が2分の1というのは、結構少ないな・・と感じます。
なぜかと言いますと、離婚するときは、夫婦の共有財産は2分の1ずつに分けるのが基本です。
つまり、もともと夫婦の共有財産だったものについては、相続といっても、妻の相続分は共有財産の清算だけということになります。
先祖伝来の遺産が多い方の場合は、夫婦共有財産の清算分より、多く相続できるということにはなりますが・・・。
さて、配偶者居住権の話にもどります。
夫に先立たれた妻が、住むところを失わないようにしなくちゃいけない一方で、ひとりで生活していくためには家だけじゃなくてお金も必要です。
遺産が、自宅しかないとなれば、妻が自宅を相続しようにも、ほかの相続人に分けるものがないということになりますし、自宅の価値と同じくらいの金額の預金があったとしても、妻は自宅を相続すれば、預金は受け取れず、やっぱり生活ができない・・ということになってしまいます。
そこで、妻は、自宅を相続しなくても、生涯住むことができるようにしつつ、預金も一定割合もらえるようにと作られたのが配偶者居住権の制度です。
3年前、結構、鳴り物入りで導入されたような印象だったのですが、実際施行されてみると、使われている例が少なく、すこぶる低調な様子です。
令和3年の1年間で、登記された件数が全国で880件くらいと公表されています。
滋賀県だと、おそらく一桁・・・くらいだと思います。
実際、ひとりになって、ずっと自宅で生活し続けられる方は多くないのではないでしょうか。
世論調査などでも、男性の多くは、介護が必要になったら、自宅で妻に介護されたいと考えている一方で、妻の方は、施設等への入所を希望する方も多いようです。自宅でひとり暮らしは不安・・、という方も多いのではないでしょうか。
それに、やはり、生活費や医療・介護の費用の問題があります。年金だけでこれらを賄える方は多くなく、貯金のとりくずしや資産の売却が必要になってきます。
そのようなときに、配偶者居住権を設定してあると、換価できず、身動きが取りにくくなる心配があります。
遺産が多くあって、生活費等の心配がない方については、配偶者居住権の設定によって、場合によっては(相続専門税理士による入念なシュミレーションの結果として)節税できることがあるといったメリットもあるようです。
でも、一般的な場合だと、生活費のことをしっかり考える必要がありますし、あまり使いやすい制度ではないなと思います。
ちなみに、配偶者居住権を設定した場合、「従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって、居住建物の使用及び収益をしなければならない」「所有者の承諾を得なければ、・・・第三者に・・使用もしくは収益をさせることができない」とされています。
個人的に気になるのは・・新しい同居人を見つけて一緒に住むのはだめなのか・・・?という点なのですが・・所有者の許諾が必要ということになると思います。
それにしても自由に人と一緒に住めない居住権なんて・・・!?
それでますます人気がないのかもしれませんね♪
配偶者居住権や相続全般につきましては、ぜひ当事務所にご相談ください。
作成:弁護士 若 山 桃 子
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