古民家の活用事例(女性企業者の場合②)
先日、松場登美さんのご講演を聞きに行かせていただきました。(中小企業家同友会さん主催のご講演。会員ではないのですが、聴講させていただきました♪)
松場さんは、世界遺産の石見銀山の町で、ご夫婦で会社を運営されて、群言堂さんというブランド名で京都伊勢丹さんや梅田阪急さんなどの百貨店で、お洋服や生活雑貨などのお店をされています。また地元の大森町には本社社屋があり、お宿の経営もされています。
松場さんの経営されているお宿は他郷阿部家さんという屋号で、築200年以上の武家屋敷を再生されたものです。江戸時代に銀山の奉行だった阿部家の方が代々お住まいだったお家だそうです。
【他郷阿部家さんのHP】
ライフスタイル提案型の宿とのことで、HPや動画を拝見すると独特の雰囲気ですごく素敵です。建物がすごく昔の雰囲気を残してあって趣きがあり、江戸時代の阿部家の当主さんの日記や絵なども残っているそうで、それを読んだりするイベントなどもあるようで面白そうです。本物のサムライハウスに泊まれるということで外国人の方にも人気のようです。
また、他の宿泊者の方や登美さんと一緒に夕食をいただけるそうで、お料理もとてもおいしそうですし、交流も大変楽しそうです。
HPも、お庭の植物とか、季節ごとの宿の美しい写真がいっぱいで素敵です。
ただ、一般的なお宿のような、部屋の広さや設備等の具体的な記載はほとんど見当たらず、ちょっと不思議な雰囲気です。
さて、このお宿ですが、法律上はどういう位置づけになるのかな?とご講演を聞きながら、少し気になりました。
宿泊料をとって人を宿泊させることは旅館業にあたります。旅館業の許可としては、旅館・ホテル営業、簡易宿泊所営業があり、また、これとは別に住宅宿泊事業法の住宅宿泊事業もあります(いわゆる民泊。)
そして、届出のない違法民泊も相当数あり、さまざまなトラブルが生じています。
住宅宿泊事業法上の民泊については、設備面での規制が少ない一方、年間180日間しか営業できません。
お休みのときなどに、民泊的な小規模な宿にときどき泊まりますが、予約するときも、泊まってからも、結局、その宿が、民泊なのか簡易宿泊所なのか、旅館・ホテルなのかというのは実はよくわからないことも多いです。予約サイトなどにもあまり書いていないです。泊まる分には、別に営業形態が何でも特に影響はないのですが・・。それに、宿のHPって、そもそも運営会社とか代表者とかも載ってなかったり、なんとなく謎な感じのところが多いなと日頃個人的には感じています・・・。
さて、他郷阿部家さんのHPを見ると、年間を通じて予約できる様子ですので、住宅宿泊事業法の民泊ではなさそうです。
また、一番気になるのは、なにしろ、築200年以上の江戸時代の古民家ですので、そもそも建築基準法等の基準に適合させることとかできるのかな?・・ということです。旅館・ホテルにしても、簡易宿泊所にしても、建築基準法に合致していないと許可は受けられないわけですし・・。
いろいろ見てみてもよくわからなかったので、後で恥ずかしながら、メールで質問してみました。
ありがたいことに、後日、マネージャーさんからご回答いただけました。お忙しいなかご対応くださりありがとうございます。
旅館業法の簡易宿泊所営業の区分で許可を取得しておられるということと、建築基準法については一級建築士さんにすべてお任せしてご対応いただいた、とのことでした。
なるほど・・。HPに改修前の相当老朽化していた当時の写真もたくさん載っているのと、改修後の今の様子が、すごく昔の姿を残したままだという印象が強くて、これを建築士さんが、構造計算をして耐震補強をして基準をクリアさせてあるということに、(宿として営業されている以上は当然それができておられる、ということにはなるわけですが・・)改めて、すごくびっくりしました。江戸時代の武家屋敷を現代の建築基準法にマッチさせてあるとは・・・・(!)。
基準をクリアさせるということと、風合いを残すということを両立させているのがすごいですし、きっとオーナーさんと建築士さんとで、いろいろとこだわって工夫されているのだと思います(実物を見てもいないのに・・何を書いているのでしょうか・・(;^ω^))。
また、動画などで見ると町並みもすごく趣きがあって素晴らしく、地元の企業さんと地域の方々で、これほど、町全体が整備・維持されてるというのはすごいことだなと思います。
他郷阿部家さんは島根県ですが、長野県が作成している「古民家活用マニュアル」というのが公開されていて、古民家の再生と活用について詳しくのっていて、読み応えがあります。長野県は古民家活用に力を入れておられるという印象を受けます。
まず、古民家について、「趣のある外観、自然環境と一体となった佇まいや町並みは、国内外から観光客を呼び込む貴重な「地域資源」として・・改めてその価値が見直され、宿泊施設や飲食店等での活用事例や、古材での活用事例も増えてきています。」と、古民家活用の意義を論じていて、また「こうしたニーズの高まりの一方で・・・建築士等の専門家の関与がないまま、不適切な改修が行われる懸念も生じています」と警鐘も鳴らしています(・・きっといろいろと問題も生じているのでしょう・・・)。
「古民家等は建築当時の基準で建てられているため、現行法令に適合しないことが多く、用途変更にあたっては、原則として現行の基準に従って設備や建物を改修する必要が生じ、想定以上の工事費が必要になることがあります。増改築を行うときは専門家の意見を聴くなど、事前に十分な検討が必要です。」
そしてたくさんのビフォーアフターとともに、改修にかかった費用なども載っています。施工例はどれも素敵ですが、「想定以上の工事費」・・・というのが重いですね。よく見ると、行ったことがあるかもしれない施設も載っていました。
こうしていろいろ見てみると、かなり古い建物でも、改築して(建築基準法に合致させて)宿や店舗として活用されている例は一定程度あるようではあります。でも、他郷阿部家さんのような江戸時代のものとなるとそのなかでも、特に古い部類になると思いますし、改築の仕方自体もかなり凝っていらっしゃるのだなと感じました。
他郷阿部家さんに宿泊された方の動画です。
町と宿の雰囲気がわかりやすいです。
↓
世界遺産石見銀山 230年の武家屋敷を改装した宿に泊まる – YouTube
そういうわけで、小規模なお宿の法的位置づけ(?)と、資金力と熱意があれば、そして、専門性の高い建築士さんにお願いすれば、江戸時代の武家屋敷も建築基準法にマッチさせられる!(・・場合もある・・らしいですよ・・)というお話でした。
作成:弁護士 若山 桃子
#古民家 #建築基準法 #民泊 #簡易宿泊所 #石見銀山